望月テスト(望月, 1998; 望月 他, 2003)
語彙サイズテストの問題点
Vocabulary Levels Test (Nation, 1990; 2001)の問題点
- 初級学習者に向かない
- 1000語レベル以下の語彙サイズは測定できない
- 目標語の意味を知っていても、定義が難しいので選択できない
- 母語が英語に近い場合、同族語に知識を利用できる
- 選択肢間に意味の類似性がないので、目標語の正確な意味を知らなくても、大まかな意味の分類が分かれば正答を選ぶことができる
- サンプル数が少ない(各レベル18問)
- 接辞の知識を持っていることを前提に語彙レベルが決定される=実際よりも語彙レベルが上になる
- カタカナ語になっている語が多数含まれる
- 元になる語彙データベースが古い
The Eurocentres Vocabulary Size Test (EVST)(Meara & Boxton, 1987; Meara, 1992)の問題点
- Yes/No形式なので、語の形を知っているかを測定しているのであって、語の意味を知っているかを測定していない
- 同じ語彙リストから作られている数種類のテストだが、同じ受験者であっても、テストの平均点が異なる=信頼性が低い
- 減点方式をとっているため、語彙サイズがゼロ以下の受験者が出る
- アラビア語母語話者に擬似語がうまく働かない
→VLTの方がEVSTよりも問題点が少ない=VLTを元に日本用の語彙サイズテストを作成する
相澤(1997)による日本人用VLT
VLTの修正
- 定義の難しさ → 定義を日本語にする
- サンプル数が少ない → 9セクション27題に変更(VLTは6セクション18題)
- 接辞の知識を前提にしている → 派生語換算にする
- 外来語の多さを修正・語彙データベースを新しいものにする → 北海道大学英語基本語彙表(園田,1986)から語彙を無作為に抽出
相澤の日本人用VLTの問題点
- 北海道大学英語基本語彙表からのサンプル数が、各レベルで異なる=母集団の語彙の代表性が低い
- 北海道大学英語基本語彙表での派生語の定義があいまいであるが、そのまま語彙レベル計算に使用している
- 妥当性検証を行っていない
望月による日本人用VLT
北海道大学英語基本語彙表の改定
- 重複している語の削除
- 英米異綴りの場合、米語を採用
- 序数は削除(first, second. thirdは残す)
- 規則、不規則の活用形は削除。ただし、Be動詞、助動詞、形容として用いる動詞活用形(drunk, interestingなど)は残す
- 学習者にとって容易と思われる語のレベル引き下げ
- 学校英語の基本語と考えられる語
- 外来語として日本語に定着している語
- 1000語単位で分類(基準は以下の通り)
以上の選定過程を経て、1000語〜5000語レベルの4926語を「改定北大語彙表5000語」とした
語彙サイズテストの作成
相澤テストからの変更点。( )内は相澤テスト
- 改定北大語彙表5000語の利用。(北海道大学英語基本語彙表)
- 問題数2に対して選択肢6。(問題数3に対して選択肢6)
- 問題数30。(問題数27)
作成手順
- 「改定北大語彙表5000語」の各レベルから30語を無作為抽出
- 「改定北大語彙表5000語」の各レベルから錯乱肢60語を無作為抽出
- 同じ品詞の正解2語と錯乱肢4語=1セクション
- 正解の語の意味をLongman Dictionary of Contemporary Englishで引き、最初に出てきた語義を「カレッジライトハウス英和辞典」(研究社)で調べ、定義とする。
- 「カレッジライトハウス英和辞典」での訳語が外来語の場合、定義を作成する
→「語彙サイズ測定テスト」(VST)
VSTの妥当性・信頼性検証
- VLTとの相関は高い。0.77(p<.005)
- 受験者へのアンケートとの相関。ばらつきはあるがすべてのレベルで有意な相関。
- 信頼性(KR-20):すべてのレベルで.70以上
→VSTは高い妥当性と信頼性がある
今後の課題
望月(1998)では以下の点が挙げられている。
- 日本語訳や語形などから正答を推測することができる。
- 外来語の扱い
望月(2005)では、他の研究者から指摘された問題点を紹介している
- サンプル数の問題:推定語彙サイズの信頼性が低い
- 頻度レベルわけの妥当性が疑わしい
- 日本語の説明が長い、古い
- 推測回答を容認している
- 回答時間に制限がない=即認語彙を測定していない
- 学習者へのフィードバックが試験者任せになっている
以上の問題点を克服するための試作として「コンピュータ版語彙サイズテスト」の作成
修正点は以下のとおり
- テスト形式の変更=1定義3選択肢
- 1レベル25問、7レベルで175問
- 日本語の簡略化
- 設問ごとに時間制限
- 推測回答防止=誤答は減点
- 即時フィードバック
- ログ記録の保持
この「コンピュータ版語彙サイズテスト」は妥当性・信頼性検証は行われていない。