Nation (2021)

Nation, P. (2020). Is it worth teaching vocabulary? TESOL Journal, 1–9. https://doi.org/10.1002/tesj.564

多くの教師は、語彙の指導に頭を悩ませています。しかし、語彙を学ぶ方法に焦点を当てる方がはるかに効果的である。この論考では、教師の仕事として、重要な順に、(1)バランスのとれたコース設計、(2)教室での作業や宿題の整理、(3)学習者の学習方法の訓練、(4)テスト、(5)語彙の指導について見ていきます。これらの仕事は、自主学習による語彙の習得や言語使用による学習にも適用される。また、著者が理想とする、学習機会のバランスを考慮した語彙学習プログラムについての簡単な説明もある。

『復刻版 第三の書く』

青木幹勇(2020)『復刻版 第三の書く』東洋館出版

*初版は1986年。1992年の第8刷を底本としている。

副題にもある「読むために書く,書くために読む」を実践するための本。タイトルの第三の書くは,第一の書くである「書写」,第二の書くである「作文」とは異なる「書くこと」を示している。例えば,メモを取ったり,話す前に概要を書いておくと言ったことから,読んだものから書き抜いたり,書きまとめたりと,多彩な書く活動を含んでいる。

非常に面白く読んだのは,「2.「書くこと」は嫌われている」で示される,書く指導を嫌う人々への反論である。8点が挙げられているが,それぞれへの反論はどれも耳が痛い。また,「3.「第三の書く」の展開」では視写の重要性について述べている。視写は板書した文章をノートに書き写させることで,文章を書くことに慣れさせるとともに,筆速を向上させる指導である。ノートテーキングの前段階での筆速の重要性は英語の授業でも感じるところである。

さらに,本書では,発問について,その効果への限界を知るべきであり,安易な発問だけで授業を展開するべきではないと繰り返し強く述べている。その代わりに,「書替え」を勧めている。これは,例えば,物語文では読者が登場人物の一人となり,その登場人物の視点で物語を書き替える指導である。この書替えのためには,物語に入り込み,よく読み,また書かなければならない。つまり,「書くために読む」ことをしなければならない。

全てが英語の授業に右から左に使えるわけではもちろんないが,応用できる指導のアイディアは少なくない。それ以上に,言葉を教えるものとして,安易な方法に走らず,試行錯誤を繰り返し,「多彩な指導法の創造的な開発」をすべきであるという姿勢は忘れてはならないものだろう。

目次

  1. 国語科における「書くこと」
  2. 「書くこと」は嫌われている
  3. 「第三の書く」の展開
  4. 書くことの多角化
  5. 「第三の書く」と発問
  6. 文学教材における「第三の書く」
  7. 説明的文章における「第三の書く」
  8. 伝記教材における「第三の書く」

『統計で転ばぬ先の杖』

島田めぐみ・野口裕之(2021)『統計で転ばぬ先の杖』ひつじ書房

統計を用いるためのお作法と言うよりは,論文などでどのように示すかを具体例を挙げながら解説している本。統計分析が終わり,さて,論文に図表や検定結果を入れる場面で役に立つ。特に,表での桁合わせへの注意は,他の統計関係の本では見ない。これは論文を書く人にとっては当然だからなのだけれど,修論などで初めて書く人にとっては気が付きにくいところかもしれない。同様に,検定結果も何をイタリックにすべきか,小数点の位置やスペースを入れるかなど,細かいけれど,それ大事という点が書かれている。卒論・修論を書く前に読んでおくと良い

ただし,最初に述べたように,統計手法そのものについての説明はそれほど多くない。タイトルにある「転ばぬ先」は検定などを終えた後の論文のそのものであり,検定そのものを必ずしも指していない点は注意。

第1章 統計分析を行う前に
第2章 そのグラフ、大丈夫ですか
第3章 その表、大丈夫ですか
第4章 有意差の意味を理解して、正しい記述を!
第5章 統計記号や参照マークも正確に!
第6章 t 検定にまつわるDon’ts
第7章 相関係数の検定(無相関検定)にまつわるDon’ts
第8章 χ2 検定にまつわるDon’ts
第9章 分散分析にまつわるDon’ts
第10章 サンプル数が検定結果に影響を及ぼす!

ちなみに,ひつじ書房のサイトで連載をしていたものの書籍化なので,以下のサイトで連載版を見ることが出来る。

https://www.hituzi.co.jp/hituzigusa/category/rensai/toukei/

Kremmel, B., & Schmitt, N. (2016)

Kremmel, B., & Schmitt, N. (2016). Interpreting Vocabulary Test Scores: What Do Various Item Formats Tell Us About Learners’ Ability to Employ Words? Language Assessment Quarterly, 13(4), 377–392. https://doi.org/10.1080/15434303.2016.1237516

語彙サイズテストのスコアは、一般的には対象となる単語を “知っている “または “学んだ “ことを示していると解釈されてきました。しかし、単語を「知っている」ということは、4つのスキルのうち1つ以上において、実際の言語コミュニケーションでその単語を使用する能力があることを指します。また、その単語の派生形やコロケーションを知っているなど、より深い知識も必要となります。しかし、様々な語彙項目の形式が、語彙の使用可能性(*実際に使えるか)や単語知識の側面(*ここでは派生語とコロケーション)の習得について、どのような情報を与えるかについては、ほとんど知られていません。つまり、様々な項目形式からどのようなスコア解釈がなされるのかについては、ほとんど分かっていないのです。この論文では、4つの形式的意味を持つ項目形式(多肢一致、多肢選択、2種類のクローズテスト(*定義が与えられ単語を各形式と定義に加えて文の穴埋めのようになっている形式。どちらも頭文字が与えられ,文字数分の下線が与えられている))を調査し、それらが語彙の使用可能性や派生語やコロケーションの知識についてどの程度参考になるかを調べた2つの研究について報告する。その結果、4つの項目形式の成績は悪く、これらの項目形式のスコアを、語彙が読書の際に使用できるレベルまで知られていることを示すと解釈するのは妥当ではないかもしれないことがわかりました。さらに、これらのテストのスコアは、単語が形と意味の結びつき以上に深く知られていることを意味するとは考えられないこと(*つまり,派生語やコロケーション知識は担保されないこと)が示唆された。

上記( )に*がある部分は補足。

Brown, D. et al. (2020)

Brown, D., Stoeckel, T., Mclean, S., & Stewart, J. (2020). The Most Appropriate Lexical Unit for L2 Vocabulary Research and Pedagogy: A Brief Review of the Evidence. Applied Linguistics, (1993), 1–7. https://doi.org/10.1093/applin/amaa061

L2の語彙研究と教育において、語彙単位の選択は重要な問題である。この短いレビューでは、この問題に関連する2つの重要な質問を検討する。(i)学習者が受容的に扱える語彙単位はどの程度包括的なものか? (ii)語彙単位の選択は実践においてどの程度の違いをもたらすか?前者については、英語学習者を対象とした研究から得られた実証的な証拠によると、接辞に関するかなりの知識とその知識を適用する能力を必要とする「語彙ファミリー」という広い単位は支持されない。後者については、アプローチや対象とするテキストの種類の違いにより、派生形で構成される英語テキストの割合の推定値は異なる。しかし、最小の推定値であっても、文章理解に意味のある影響を与えるには十分な大きさである。したがって、このレビューでは、最も適切な語彙単位はlemmaまたはflemmaであることを示唆している。この結論は、語彙テストや学習ニーズの推定に関するL2語彙研究や、カリキュラムの計画や単語リストの使用に関するL2語彙教育学に大きな影響を与えます。

Cobb and Laufer (2021)

ACobb, T., & Laufer, B. (2021). The Nuclear Word Family List: A List of the Most Frequent Family Members, Including Base and Affixed Words. Language Learning, 71(3), 834–871. https://doi.org/10.1111/lang.12452

本稿では、最も頻度の高い「核」の語族、すなわち、最も頻度の高いword familyだけを含み、word familyの出現率が7%未満のものを除いた2,887の語族のリストであるNFL7(Nuclear Family List 7)を紹介する。NFL7は、専用のコンピュータプログラム「Nuclear List Builder」(ユーザーが自由に利用できる)を使って作成した。リストを構築するために、そのツールを使って、3,000の最頻出語族の完全なBNC/COCAリストを、19,062のword typeから7,293のword typeに、9,132のlemmaから5,610のlemmaに削減しました。このように削減されたにもかかわらず、NFL7はテキストカバー率の点で他のリストと比較して良好であり、最も頻繁に使用される派生接辞の数も少なくありません。NFL7は核化されているため、上級者以外の学習者、受容的知識と生産的知識の両方を教えたりテストしたりするのに適しており、また基本的な形態論の指導にも適している。

Excelでクロス表から成績を決める(その2)

以前こちらで「EXCELでクロス表から成績を決める」を書きましたが,うまくいかないのと,より良さそうな方法があったので,(その2)としてアップデート版を書いておきます。使うデータとやりたいことは以前と同じ。以下のように,観点1が1行目,観点2が1列目として,両方の観点が5なら5,観点1が5で,観点2が4ならば,4を与えたい。

54321
555443
454432
343332
232221
111111

こちらのサイトの記事「【エクセルのクロス抽出】INDEX関数とMATCH関数の組み合わせ」を参考にしています。イメージとしては,以下のようになれば良い。エクセルのシートに,以下のように,A~Dは成績処理,F~Lは上のクロス表が配置されているとする。

ABCDEFGHIKL
1ID 観点1(縦) 観点2(横) 成績(縦と横) 54321
2A01555555443
3A02545454432
4A03323343332
5A04141232221
6A05513111111

上のD2に入っているのは,

=INDEX($G$2:$L$6,MATCH(B2,$F$2:$F$6,0),MATCH(C2,$G$2:$L$6,0))

INDEXは(参照, 行番号, 列番号)を引数としてとり,範囲の中から行番号と列番号のクロスしたセルの内容をとってくる。

matchは(検索値,検索範囲,照合の種類)なので,

縦に検索する値(上だとB2の5)をF2~F6の範囲で探し,完全に一致するもの(照合の種類が0)を探す。返す値は,範囲の中の列番号なので,上の場合には,F2に当たる2(行目)を返す。

横に検索する値(上だとC2の5)をG1~L1の範囲で探し,完全に一致するもの(照合の種類が0)を探す。返す値は,範囲の中の行番号なので,上の場合には,G2に当たる2(行目)を返す。

INDEXの中身は,(G2からL6の範囲のなかで,2行目,2列目)=5を返す。

スクリーンの半分をパワポ,半分を自分を出す

Atem Mini Proを持っているので,パワーポイントを映しながら,自分の顔を出すこともできる。しかし,Atem Mini Proとか使わなくてもできそう…と思っていたら,それを察したAtem Mini Proが不調になり,結局,検索してやる羽目になった。OBSも考えたけど,今回はありもののアプリでできるならそれに越したことはないということで。

参考にしたのは,How to present your video and content side by side in a Microsoft Teams meetingと言うサイト。単純にいうと,スクリーンの半分にスライドショーを,もう半分にカメラアプリで自分を写すというもの。参考にしたサイトの手順でほぼできたのだが,パワポの設定で1つだけ追記があるので,その点を含めて紹介。

  1. パワポの「スライドショーの設定」で「出席者として閲覧する(ウィンドウ表示)」を選んでおく。こうしないと,パワポのスライドショーがフルスクリーンになってしまうので,画面に半分だけ写すことができない。
  2. スライドショーを実行して,スクリーンの半分程度にしておく
  3. Windowsであれば,カメラアプリを起動する。右下の検索ウインドウからカメラを探すとすぐに出てくる。
  4. カメラが起動したらモードを動画にしておくと良い。静止画のままだと,顔認識の枠が出てくる。
  5. カメラの画面をスクリーンの残り半分にする。
  6. ZoomやMS Teamsでこのパワポとカメラの画面を共有する。

注意

  • パワポの文字などの大きさの関係で,必ずしも画面を半分にする必要はないが,うまくやらないとデスクトップが映るので,デスクトップのアイコンなどは整理(パワポのスライドショーの裏に寄せる)
  • 標準のカメラアプリは背景設定はできないので,自分の後ろが丸見えになる
  • ZoomやMS Teamsでカメラをオンにしてから,アプリのカメラをオンにすることはできない。逆も然りで,アプリのカメラがオンの状態で,ZoomやMS Teamsのカメラをオンにしようとすると警告が出る。

Nicklin, C., & Vitta, J. P. (2021)

Nicklin, C., & Vitta, J. P. (2021). Effect‐Driven Sample Sizes in Second Language Instructed Vocabulary Acquisition Research. The Modern Language Journal, 10.1111/modl.12692

本研究では、指導による第二言語語彙獲得(L2 IVA)の研究81件を2つの段階に分けて分析した。第1段階では、研究の効果量を分類し、コード化した。基本的な被験者間デザインと被験者内デザインの二分法では、観察された効果の不均一性を捉える感度が不足していたため、より詳細なアプローチを採用した。被験者間デザインと被験者内デザインの両方において、指導と比較の対照は、L2 IVA実験で最も関心の高い比較を最もよく表しており、効果量(g)の中央値は0.62(被験者間)と0.25(カウンターバランスを取った被験者内)であった。第II段階では、第I段階で観察された効果量の集計値を、一般的なL2 IVA分析のおおよそのサンプルサイズを示すために、事前に行うパワー分析のシミュレーションに利用した。保守的なパワーを与えた被験者間デザインでは、シミュレーションでは292~492人のサンプルサイズが提案された。カウンターバランスを取った被験者内デザインでは、反復測定の間に想定される相関関係に応じて、95~203人の被験者が必要であった。これらのシミュレーションの包括的な意味合いは、将来のL2 IVA実験では、先行研究の効果量を参照して,より大きなサンプルが必要であることを示唆している。本研究では,より大きなサンプルを得るという問題に対して3つの可能性のある解決策を提示している。

オンライン授業の記事3部作

コロナ禍に翻弄された2020年度は,たまたまお声がけいただいて,大修館の『英語教育』にオンライン授業関連の記事を3回寄稿させていただいた。大修館の担当者から,「3部作ってことで」と言われ,書いてみたものの,どこが3部作なのか…。さておき,2020年の振り返りもしていなかったので,3部作(笑)で何を書いたのかを振り返って,去年の振り返りにしてしまおう。

6月号(発売は5月)の英語教育では,「【緊急特別記事】オンライン教材を利用した英語授業で気を付けたいこと」として,オンライン授業をする際の留意点を5点ほど紹介した。記事を書いているのは4月上旬の時点で,勤務校でオンライン授業を行うことが決まった直後であり,さて,どうしようと考えていたところであった(勤務校でのオンライン授業への方針決定などは,こちらの記事を参照)。紹介した留意点は,

  1. 自学自習で済ませてはいけない
  2. オンライン教材の入り口は1つに
  3. 学習時間ではなくて,学習成果で判断
  4. コントロールできないものはしない
  5. 手を変え,品を変え,飽きさせないように

という5点で,バタバタした中で書いたにしては,まともなことを書いている(ような気がする)。実質,数日で書いて,寝かせて,即校了だった記憶がある。

これらの留意点のいくつかを広げたのが,第2作と第3作なっているので,オンライン授業元年の基本方針になりうるものを含んでいたのだと今思ったりする。

第2弾は,夏の終わりの別冊『英語教育2020年10月別冊 英語教師のためのオンライン授業・動画配信ガイド』に寄稿させていただいものである。タイトルは「オンライン授業におけるフィードバックの工夫:広島大学における実践例」としてあり,主に,6月号で述べた留意点の1に関するものである。記事を書いているのは,7月なかばくらいなので,前期の終わりが見え始めた頃だった。実践報告を書くつもりが,フィードバックに重心を置いてほしいということだったので,依頼を受けてから方向転換をした記憶がある。自分としても,ライブ型授業であれ,オンデマンド型授業であれ,いずれにせよフィードバックをどうしようかと悩んでいたので,実践報告として書きながら自分の頭を整理することができた。ライブ型授業とオンデマンド型授業で分けてフィードバックの具体的な方法を書いたが,細かいTipsのようなところで,意外と役に立ったところがあったようで,安心した記憶がある。

第3弾は,2月号(1月発売)で,「オンデマンド型授業における成績評価の工夫」という記事。6月号の3と4の留意点を振り返りつつ,別冊の内容も含んでいる。評価というのは,対面式授業でも困るのに,オンラインだと尚困るということで,試行錯誤を記事にしたというもの。特に大学でのオンデマンド授業を想定しているので,成績処理と出欠のあり方をメインにした。私の記事の前後にもオンライン授業での評価についての記事があり,どちらも,ちゃんと形成的評価という用語を使って,詳しく説明をされている。大変に為になったと同時に,「あ,形成的評価とか,総括的評価とか使えばよかった」と反省した。

そんなこんなで,オンライン授業の記事を3つ書いて,それで終わったような2020年だったけれど,それだけ,オンライン授業でお困りの先生方が多くいたということでしょう。何せ,オンライン授業の専門家でもない私に寄稿依頼が来るくらいですから。たまたま,勤務校でオンライン授業を以前から進めていたので,試行錯誤で学んでいたところを共有することができたのですね。今となっては,あ当たり前になったことを書き散らした感もありますが,どこかでお困りの先生のお役に立てたなら幸いです。

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